国盗り物語

司馬遼太郎 著

斎藤道三

第一部の主人公は「まむし」と怖れられた梟雄・斎藤道三。彼は油売り商人から身を起こして美濃一国を切り取り、下克上の第一人者として認識されております。物語は、道三が油売り商人になる少し前から始まります。この斎藤道三は、まさに野望の塊のような男として描かれております。立身出世こそが人生の目標であり、それに向かって駆け続けた人でありました。世の中をひっくり返すには、これぐらいの情熱がないとできないものなのでしょう。

織田信長

第二部は織田信長。尾張のうつけ」と侮られていた信長ですが、第一部の主人公・斎藤道三は信長のただならぬ才能を読み取り、愛娘を信長の正室として嫁に出します。思えば、下克上という風潮に乗った道三の娘婿が、戦乱の日本を武力で統一に導いたという事実は何か不思議な縁を感じます。古ぼけた迷信や旧習を打破していく信長の姿はまさに時代の改革者であり、新たな思想家でもありました。

明智光秀

最後の第三部は明智光秀が主人公となっております。若い頃は流浪の浪人生活を続け、将軍家を以って乱世を終息させようと考えている、信長とはおよそ対照的な思想を持つ人物として描かれております。そうだとすれば、天下布武が進むにつれて二人の間の溝が深まっていくのも自然なことだったのかもしれません。光秀は信長の思想を危険視し、彼は彼の価値観で天下をまとめることを考えたのでしょうが、そのためにとった「謀反」という行動は、古きよき礼式を重んじる光秀にとっては最悪のものだったのかもしれません。彼が理想とする姿ではなかったでしょう。そのためか、山崎の戦いでのあっけない敗北には自分の道を歩もうとして根本から崩れてしまった、というような寂寥感を感じました。


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