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わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡

塩野七生 著
中央公論社


「君主論」の著者として有名な「マキアヴェッリ」の生涯と、彼が生きたルネサンス期のイタリアを描いた描いた歴史小説です。マキアヴェッリというと「マキアヴェリズム(目的のためには手段を選ばない、という非情な考え方)」の言葉から、冷徹非情な印象を与えることが多いですが、著者の塩野氏は彼を「わが友」と言い、彼が何を見て、どう行動し、何を考えて「君主論」と著したのか、著名な事件、非著名な事件、そして多くの手紙を基にして構築され歴史小説です。

<構成>
 「マキアヴェッリはなにを見たか」「マキアヴェッリはなにをしたか」「マキアヴェッリはなにを考えたか」の三部構成になっており、マキアヴェッリの母国であるフィレンツェ共和国の歴史が時系列に沿って語られています。当時のイタリアはフィレンツェやヴェネツィア、ミラノにナポリと小国がひしめきあており、その様子はさながら日本の戦国時代のようです。日本の戦国時代と異なる点として一つ挙げられるのは、ナポリは王国、フィレンツェとヴェネツィアは共和国、ミラノは公国と、政体が多様であることに加え、超国家的な存在である「ローマ教皇」が存在したことでしょうか。このように、日本とは異なる文化を土壌としながらも、そこに生きた人々の考え方や歴史の流れは、日本史とも共通した部分も多く見られたところはたいへん興味深いです。

 冒頭で「歴史小説」としましたが、文章は残っている手紙や日記などの記録に著者の解釈を加えていく流れになっていますので、どちらかというと「小説」というよりは「人物考察」に近いものがあります。そのため、「小説」のようなドラマチックな展開は少ない代わりに、著者の考え方や論旨はわかりやすくなっているのが特徴です。

<表には出にくいが重要な「お金」の話>
 本書では、お金の話がわりとよく出てきます。マキアヴェッリの父親の給料を他の職業の給料と比較することで、彼の家の生活水準を測ったり、登場人物の生活水準を紹介したり、などなどです。お金の話になると「金儲けの話なんてロクでもない」と思う方もいるかもしれませんが、これはとても重要なことだと思います。歴史の主役は政治・軍事・外交ですが、それらを支えているのは経済であるからです。表に出てこないため、その重要性が見逃されていることがしばしばありますが、これは現代でも通じる普遍の原理だと思います。給料の金額などの数値データが正確に残っている、という点は、歴史を考えるうえでたいへん便利なことだと思うと同時に、著者の視点のユニークさにも感心しました。

<歴史を考えるうえで重要な「考え方」>
 歴史は科学とは異なり、実験して過去の事件を再現して確かめたり、数値や計算で証明することが難しいため、考え方によっては「なんとでも解釈できる」ものになります。そのような性質を持つ「歴史」を考えるうえで、たいへん重要な考え方の一つを示す文章を見つけることができました。それは
「歴史は著名な事実だけで成り立っているのではない。著名な事実と非著名な事実の両方に支えられて、成り立っているのだ」
という内容の文章でした。
まさにのそのとおりです。
「著名な事実」は、有名なうえに印象も強いので、重要であることに間違いないのですが、それが歴史の全てではないわけです。そこを間違えると、歴史を間違って認識する原因になるばかりでなく、過去の人物が仕組んだトリックや隠蔽工作にかかってしまう要因になりえます。「事実」でないものは除外ですが、「非著名な事実」も歴史をなるべく正確に認識するうえでたいへん重要な視点であることを学びました。

  




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