書名 壬生義士伝
著者 浅田次郎
出版社 文春文庫

 南部盛岡藩を脱藩し、新選組に身を投じた吉村貫一郎を様々な視点から描いた物語です。通常の小説とは異なり、主人公・吉村貫一郎の独白と、大正時代になってから貫一郎の周囲の人物たちが、作家に過去を語る、という2種類の視点で物語が構成されています。盛岡の方言も使用されており、なかなか味のある内容です。
 物語の中で「義とは何か?」と、貫一郎が後輩に尋ねる場面があります。後輩は教科書的な解答である「人として正しい事」と答えます。それに対し、貫一郎は「その通り。義とは人として正しい事であって、武士として正しい事ではない。」と諭すのです。このやりとりを読んだ時、心に響くものがありました。「義」とは武士として正しい事ではない、人として正しい事である。論理学的な修辞とも言えますが、たいへん奥の深い言葉ではないでしょうか。武士社会が停滞し、様々な形でひずみが生じ、幕府と朝廷と、将軍と天皇と、大義と不義とが声高く論じられた時代は、武士のあり方、人のあり方について問われる時代でもあったことでしょう。
 主人公の貫一郎が英雄であり過ぎるむきもありますが、物語の構成はまさに、泣かせる浅田の作品といえるでしょう。

・2000年「第13回柴田錬三郎賞」受賞
・映画「壬生義士伝」 原作

侍庵トップページへ戻る