王城の護衛者

司馬遼太郎 著
講談社文庫

1.王城の護衛者

主人公は幕末会津藩主・松平容保。天誅の嵐が吹き荒れる京都に京都守護職として赴いた彼は、ただひたすら天皇の護衛者たらん としておりました。幕末会津藩には、白虎隊の自刃など、悲劇的な印象がありますが戊辰戦争で賊軍とされた彼らも、当初は官軍の立場でありました。それが、岩倉らの政治工作によって賊軍となってしまう・・。 正義とは何なのか?大義名分を得た方が必ず正義である、と割り切れるほど単純なものではないことは、確かでしょう。ここに描かれている容保のような、少年のような純粋さは拙者も好きなのですが、指導者たるものはそれだけでは不十分なのかもしれない、と考えた次第であります。

2.加茂の水

主人公は国学者の玉松操。隠遁生活を送る彼は国粋主義的な尊王攘夷論者でありましたが、倒幕軍を起こそうとする岩倉に説得されて、倒幕の密勅など、一連の偽勅作成を手掛けることになります。偽勅であろうが、それが勅命であると認められれば絶対的な正義が認められるという、「錦の御旗」の強力な力と恐さを感じました。

3.鬼謀の人

主人公は大村益次郎。彼は元々蘭医でしたが、蘭学とともに西洋兵学を学び、第二次長州征伐、彰義隊の戦いで活躍した人物です。例えるなら、彼は三国志の諸葛亮孔明のような人物でしょう。その知識の深さと優れた洞察力はまさに「鬼謀」の人です。これにあわせて、長編の「花神」も読んでみるときっとおもしろいと思います。

4.英雄児

主人公は越後長岡藩の河井継之助。表題の「英雄児」がふさわしい男です。中央から離れた地方の小藩の財政を立て直し、軍備の近代化を 成し遂げた手腕は常人にはできないものでしょう。こちらは短編になていますが、長編の「峠」を読むともっと味わい深いと思います。

5.人斬り以蔵

「人斬り以蔵」と恐れられた土佐藩の足軽、岡田以蔵の短編です。現代でもテロリストと呼ばれる集団が存在しますが以蔵は幕末のテロリストと言えるかもしれません。以蔵が所属した過激尊王攘夷派は、佐幕論や開国論を唱える人物を「天誅」と称して殺害する、テロリスト集団でありました。「天誅」の標語は、殺害を正統化する彼らの思想を表した言葉ですが、以蔵の場合は、自分自身がその過激思想を信じていたというよりは。自分を立ててくれた武市半平太の言う事を聞いていた、言い換えれば武市の手足だったという点が、恐ろしいところだと思いました。人が機械のようになっているようなものです。自分で考えることを放棄しているのですから。指導者の言われるがままになった以蔵の末路は悲惨なものでした。


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