真説宮本武蔵

1.真説宮本武蔵

2003年大河ドラマの原作となった吉川英治の「宮本武蔵」では、兵法の道、武士としての道をひたすら求める「求道家」として、武蔵が描かれていましたが、実際のところはどうだったのか?剣豪・宮本武蔵の実像は謎だらけです。「武蔵こそ、真の剣豪」という人もいれば「本当はたいした腕前ではい、虚名売りに過ぎない」という人までいらっしゃいます。武蔵の生涯は謎だらけです。他の人が書いた「武蔵」を読んでみようと思ったのが、この本を読んだきっかけでありました。
講談社文庫から出ている「真説宮本武蔵」は剣客ものの短編集です。その題名を飾るこの短編小説では、渡辺幸庵という、130歳という異例の長寿を遂げた男の口伝を基にして、武蔵の実像に迫っているのが特徴的です。ある程度「宮本武蔵」を知っている人にとっては、もう一つの武蔵像を知るために手軽に読める作品だと思います。それにしても、やはり武蔵は謎だらけ(^_^;)

2.京の剣客

短編集第二編は、宮本武蔵と戦った京都の名門兵法家・吉岡家のお話でした。
といっても、単に吉岡側から書かれているのではなく、題材を「吉岡伝」からとっているようです。武蔵も出てきますが、3回にわたる決闘はなく、京都所司代の立会いのもとで行われた1回きりの試合だけでした。この辺の食い違いが、宮本武蔵の像をぼかしているそうです。
それにしても、技だけではなく「気」をもって敵を崩すとは・・・。

3.千葉周作

第三編は江戸時代に北辰一刀流を起こした剣客・千葉周作の話。
筆者は主人公の千葉周作を「もう五十年おそく生れておれば、剣術者などにはならずに、自然科学者にでもなったような男」と表現しております。これまでの剣術流派と異なり、竹刀と防具を使った打ち合い稽古、誰にでもわかる平易な説明で多くの弟子を持った周作ですが、その若い頃は既存の古流剣術一派と争って苦労を重ねています。自分の技量だけではなく、「智」も用いて「北辰一刀流」を興隆させた物語でありました。「武」だけではない、「智」も持ち合わせた侍の生き様が描かれております。

4.上総の剣客

第四編は千葉周作の高弟の一人、森要蔵の話。
要蔵は上総飯野藩の江戸詰剣術指南役を務め、剣術で生きてきた人物。子煩悩でいつもにこにこしており、周囲からは「おだやかさま」よ呼ばれて親しまれておりましたが、その一方でひたむきな求道家でもありました。そして、そのためには家族を捨ててまでして、漂白の旅に出てしまうのであります。彼の剣術に対するこれほどまでのひたむきな姿勢は、賞賛に値すると思います。
物語内でも、要蔵と同じく千葉周作の高弟であった海保帆平は「要蔵殿ほどの腕前になれば、増上慢になって暮らすこともできるし、生悟りにさとって自分の境地にあぐらをかくこともできる。彼ほど、常に世間を見渡して死に物狂いな者はいない」という内容のことを言っております。だからといって、そのために妻子を捨てる、という所業は拙者には理解できませぬ。しかし、自分が世間を渡るために磨き上げた武器に疑問が生じた時、何もかも捨て去って消え去りたくなる衝動にかられるのは、拙者もわかる気がしまする。
明治維新の動乱で、要蔵は剣術に優れた資質を持った次男を連れて戊辰戦争に身を投じます。短編集の中でもかなり短い作品ですが、いろいろなことを感じさせられた作品でありました。

5.越後の刀

第五編はガラっと変わってミステリー風の話になっております。侍の象徴とも言える「刀」をめぐる物語であります。この刀というのは・・・、いや、ここであまり書くと、読んだときの楽しみがなくなると思うゆえ、この先は伏せておきましょう。

6.奇妙な剣客

最後の第六編は、戦国時代の日本にやってきたバスク人戦士の話でござる。これによると、バスク人というのはヨーロッパのピレネー山脈に住む正体不明の少数民族で、勇敢な者が多く、各国で強力な傭兵として活躍する者が多かったとのこと。そのバスク人の一戦士が、何を思ったかわざわざ船に乗って日本までやってきたのでありました。そして、日本で侍と出会い・・・。


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