世に棲む日日

司馬遼太郎 著
文春文庫

長く平穏な時代が、突如騒乱の時代へと変化していった幕末。その幕末期に大きな役割を果たした長州藩の人々を描いた長編小説です。前半の主人公は吉田松陰、後半の主人公は松陰の弟子の一人である高杉晋作。
物語は長州藩の起源から描かれ、歴史的・思想的な背景から、長州藩とその他の藩の違いを描写し、幕末期の長州藩とその人々が巧みに描かれています。幕末の長州藩は、吉田松陰から始まるという視点の下、松陰という人物の特異性と歴史上での役割を分析し、彼が純化した思想を弟子の晋作が受け継いで実行に移す、という歴史の力学的な側面から見た表現が多いのが特徴的だと思います。そういう意味では、小説というよりも、筆者が描いた「幕末長州藩の歴史」という要素が強いかもしれません。
そんな風な作品なので、筆者の歴史観については賛否両論あると思いますが、歴史の捉え方の一つとしては秀逸なものであると感じました。この本を読んで、高杉晋作が好きになったという方も多いと思います。ある程度幕末の知識を持っている状態で読むと、よりいっそう楽しめる作品だと思います。


昭和47年、著者は「世に棲む日日」を中心とした作家活動で吉川英治文学賞を受賞

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