明けて寛永15年(1638年)1月1日。幕府軍の第三回原城総攻撃が元旦に始まりました。総大将を務める板倉重昌(いたくら しげまさ:51歳)には、焦りがありました。それは、老中の松平信綱(まつだいら のぶつな:43歳)が、上使として江戸を出発した、という情報が届いたことに原因があるようです。幕府の意向は、乱の鎮圧に手こずっている板倉を解任し、新たに松平信綱を総大将とすることにある、と考えた板倉は、信綱が到着する前になんとしてでも原城を攻略し、乱を鎮圧しようと、九州諸大名にはっぱをかけて総攻撃をしかけました。しかし、柳川立花藩は動こうとせず、久留米有馬藩は抜け駆けして戦線を乱すなど、幕府軍の足並みはそろわず、城が落ちる気配はまったくありません。ついに、重昌自身がわずかな手勢を率いて城壁にはりつこうとしますが、胸に銃弾を受けて討死する、という結果に終わりました。一揆軍の死者が100人未満だったことに対し、幕府軍の死者は4000人にものぼりました。後に山田右衛門作は「この日の総攻撃を一揆軍は事前に察知しており、十分に防備を固めていたから負傷者は17人だけだった。」と証言しているそうです。
この総攻撃の前に、板倉は辞世の歌を残しています。
新玉の 年の始めに 散る花の 名のみ残らば 先駆と知れ
1月4日、松平信綱が江戸周辺諸藩の兵を率いて島原に到着。その後も、後続の諸藩の軍(例:秋月黒田藩は藩主・黒田長興が2500余名を率いて参陣。飫肥伊東藩主・伊東佑久は2500余名を率いて参陣。)が集まり続け、幕府軍は合計12万余の大軍となりました。原城の守りが思いのほか堅いため、信綱は原城を完全に包囲して兵糧攻めにし、さらに投降勧告を行って一揆軍の戦意が削がれることを狙います。さらに、板倉が生前に手配していたオランダ船を島原湾に廻航させ、海上と陸から城を砲撃させます。外国船が砲撃することにより、ポルトガルからの援軍を期待している一揆軍に失望させる、というのが狙いだったようです。しかし、熊本細川藩や肥前鍋島藩は、国内の内乱に外国の手を借りるのは名誉に関わるとして反対。また、一揆軍からも「寄せ手は、外国の力を借りねばならないほど弱いのか」と罵られてしまいます。オランダ船の砲撃に、これらを押し切って続行するほどの価値はない、と判断した信綱はオランダ船に帰港するよう命じ、兵糧攻めに集中することとしました。
(オランダは新教国(プロテスタント)であったため、籠城している民衆が信仰しているカトリックのキリスト教とはだいぶ異なります。むしろ「敵」にあたる存在と言えるかもしれません。)
2月21日、一揆軍が城から夜襲をしかけますが、大きな戦果をあげることなく、城に撤退します。この時、一揆軍の死者の腹を割って調べたところ、海草や麦の葉などが見つかったそうです。これを見て、信綱は兵糧が尽きていると判断し、ついに総攻撃を28日と計画します。しかし、肥前鍋島藩が抜け駆けして27日のうちに攻撃を開始。他藩もこれに続いたため、総攻撃が始まりました。一揆軍は必死に防戦しますが、兵糧不足と長期の籠城で疲労がたまっており、次々と防衛線を突破され、28日には本丸が陥落。大将の天草四郎時貞(17歳)は討ち取られ、原城は陥落しました。最後の戦いでの幕府軍の死者は1100人、負傷者は7000人であり、一揆軍の抵抗が激しかった様子がうかがえます。
幕府は、一揆に加担したものは例外なく厳罰で臨みました。婦女子であろうと、捕虜は全員残罪とされました。また、落人狩も徹底され、一揆に加担したものはほぼ根絶やしに殺戮されるという、悲惨な結末となりました。唯一生き残ったのは、南蛮絵師で、幕府軍に内通して捕らえられていた山田右衛門作だったそうです。彼は、内通がばれた時に一揆軍の手によって妻子を殺されていました。
一方、島原藩主の松倉勝家(まつくら かついえ:42歳)は一揆の責任を問われて改易処分となり、美作に流され、7月19日に斬首となりました。大名が切腹ではなく、斬首とされるのは極めて異例な処分です。天草4万石を飛び地として領有していた寺沢堅高(てらざわ かたたか:30歳)は、天草を没収されてしまいます。のちに、精神異常をきたして自害し、寺沢家は断絶となりました。
こうして、江戸の世に勃発した島原の乱は凄惨な結末で終息しました。島原・天草の地は幕府直轄領として復興事業が進められますが、すっかり荒廃した土地はすぐには戻らず、復興には長い時間がかかることとなったそうです。
<参考>
・日本全史(講談社)
・新日本史B(桐原書店)
・新詳日本史図説(浜島書店)
・その時歴史が動いた 第274回 それでも民は祈り続けた 〜島原の乱・キリシタンの悲劇〜
・秋月郷土館
・飫肥城歴史資料館
<関連史跡>
・「島原城」(長崎県島原市)
・「原城」(長崎県南高来郡南有馬町)
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